VC++には(それ以外のコンパイラにもきっと)、"エイリアスを使わないと仮定する"(/Ow,/Oa)という最適化オプションが用意されています。 このオプションは、"サイズ優先"とか"実行速度優先"という最適化にしても有効にはならず、明示的に有効にしないといけないものなので、恩恵に預かっているケースは少ないと思います。 まずリスト1に例を挙げます。上段がC++のソースコード。下段がコンパイラが出力したアセンブラコードです。 -List1 --ソース #prettify{{ void MemClear(int *pSize,char *pBuffer) { for(int i=0; i<*pSize; i++ ){ pBuffer[i] = 0; } } }} --出力 #prettify{{ void MemClear(int *pSize,char *pBuffer) { mov ecx, pSize xor eax, eax cmp DWORD PTR [ecx], eax jle SHORT LABEL2 LABEL1 // ループ戻り先(このラベルは次のmovの下でいい気がする…) mov edx,pBuffer // クリアするバッファを取得 and BYTE PTR [eax+edx],0 // 1バイトクリア inc eax // カウンタをインクリメント cmp eax, DWORD PTR [ecx] // クリアサイズとカウンタを比較して jl SHORT LABEL1 // まだ途中ならLABEL1に戻って繰り返す LABEL2 ret } }} このコードは一見してわかるように、指定された領域のメモリをクリアする関数です。 出力されたコードをみると、コンパイラはとても素直に最適化されていないコードを吐き出していることがわかります。 今回の最適化オプションは、このような繰り返し処理を効率良いコードにする為の物です。リスト2。 -List2 --ソース #prettify{{ // "エイリアスを使わないと仮定する"を有効 #pragma optimize ( "a", on ) void MemClear(int *pSize,char *pBuffer) { for(int i=0; i<*pSize; i++ ){ pBuffer[i] = 0; } } #pragma optimize ( "", on ) // 元に戻す }} --出力 #prettify{{ void MemClear(int *pSize,char *pBuffer) { mov eax, pSize mov ecx, DWORD PTR [eax] test ecx, ecx jle SHORT LABEL1 mov edx, ecx push edi mov edi, pBuffer xor eax, eax shr ecx, 2 // クリアサイズ(の1/4。32BITで処理する為) rep stosd // 一気にクリア mov ecx, edx and ecx, 3 // クリアサイズ(の4で割った余り) rep stosb // 一気にクリア pop edi LABEL1 ret } }} リスト1と比べると、繰り返し処理(条件分岐)も無くなっており、見るからに早そうです。 本ネタで重要だと思うのは以下になります。 なぜ、リスト1はリスト2のように最適化されないかというと、 コンパイラは、繰り返しの条件であるクリアサイズ(*pSize)が、pBufferの示すバッファに値を書き込むことで、書き換えられてしまうかもしれない。 と考えるからです。 リスト2は、"エイリアスを使わないと仮定する"としているので、コンパイラは、pSizeとpBufferの領域がダブることはない。という前提があるので最適化されたコードを出力出来ます。 ここまでの説明だと、"エイリアスを使わないと仮定する"を常に有効にすることで、何も考えずに今以上に最適化されるのではないか。と思ってしまうかもしれませんが、それは危険です。 むやみやたらに最適化させると、ソースコード的には正しいけれど、その通りに動いてくれないコードが出力される可能性があります。 僕の個人的意見では、"エイリアスを使わないと仮定する"は無効にしたまま、ソースコード上で最適化される書き方をするという手段が吉だと思います。 例えばリスト3のようにします。 -List3 --ソース #prettify{{ void MemClear(int *pSize,char *pBuffer) { int nSize = *pSize; // サイズをローカル変数にコピー for(int i=0; i<nSize; i++ ){ pBuffer[i] = 0; } } }} --出力 #prettify{{ (リスト2と同じコードなので割愛) }} 最初にクリアサイズ(*pSize)をローカル変数にコピーして、そのローカル変数がforを抜ける条件であると書くことで、 pBufferへの書き込みによってループ条件が変わることはないので、コンパイラは最適化されたコードを出力できます。 以上のことから、自分の個人的意見を言わせてもらうと、 "エイリアスを使わないと仮定する"最適化オプションは使わないほうが吉。 使うことで最適化されるケースがあるのであれば、コードの書き方を工夫することで最適化するのが吉。 "エイリアスを使わないと仮定する"最適化オプションの利用法としては、 無効の場合と有効の場合とで、出力されるアセンブラを比較して、 もし有効にすることで最適化されるようなケースがあったなら、そこはまだコードの書き方を工夫できる。 という判断材料として"エイリアスを使わないと仮定する"を使用するのが吉と思われます。 /* 最近のコンパイラは優秀だと改めて思いました。 for文でメモリクリアって、昔は rep stosd とか使ってくれなかった気がします。 今回の例であるメモリクリアであれば memset とか使うのが常識なのですが、memsetだとBYTE値でしか埋めれないので、16Bit値や32Bit値で埋めたいときは for ループを使うしかないのですが、その場合でも rep stosd とか使ってくれるようになってました。 なお、かといって memset を使わずに for でメモリクリアを実装しなきゃならないかというと、一概にはそう言えません。 VC++(他のコンパイラは良く知りません)には、組み込み関数という仕組みがあって、memset は組み込み関数として用意されていますので、memset を使うことによるパフォーマンスの低下はまず無いでしょう。(組み込み関数を有効にする必要があります) */
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